IoT・AI
生成AIの次のステップ「フィジカルAI」とは?
掲載日:2025/07/15

AIのビジネス活用が広がる昨今、とある半導体大手CEOがアメリカ・ラスベガスで行われたイベントで「AIの次のフロンティアはフィジカルAIだ」と発言したことが話題になっている。今後のビジネスを担うといわれている新技術「フィジカルAI」を深掘りしていこう。
「AIが当たり前の時代」を後押しするフィジカルAI
フィジカルAIとは、現実世界の物理法則を学習することで、環境の変化に応じて自律的に動くAIを指す。具体的には工業用ロボットや自動運転車、ドローンなどの運用の場面でフィジカルAIが活用可能であると考えられている。
フィジカルAIが注目されるようになった背景には、AIの技術進歩が進み、社会的なニーズが変化していることがある。AIの高性能化や低コスト化が進み、AI活用が社会にさらに浸透していった結果、今後は人間の活動を代替するより高レベルな業務が求められるだろう。特に高齢化や人手不足、経済不況といった問題を既に抱えている日本では、AIの活用を求める声が大きくなると予測されるため、フィジカルAIの分野には大きなビジネスチャンスがあるといえる。
受け身ではない自律型のAI技術
フィジカルAIは従来のAIと比較してどのような点が異なるのだろうか。最も大きな違いは、従来のAIが外部データの分析に特化していたのに対し、フィジカルAIは能動的に外部に働きかけることができる点である。
例として、製造業での活用が挙げられる。近年発展が続く人型の工業用ロボットにフィジカルAIを搭載した場合は、センサーが工場内の設備や状況を検知し、障害物を避けて移動したりイレギュラーな事態に反応して駆けつけたりといった行動も可能になる。組み立てや検品といった業務についても、人間が作業した際の様子を人型のロボットへ学習させることができれば代替が可能だ。
フィジカルAIは、工場における業務や環境を把握し、自ら最適化した作業を見つけて自律的に働いてくれる。
フィジカルAIの活用事例を紹介
フィジカルAIの実証実験や実用化は既に始まっている。
例えばとある大手自動車メーカーは、病院内を移動して薬剤を自動運搬するモビリティロボットを開発中だ。同ロボットの開発経緯は、看護師が行う業務において、薬剤をはじめとした物品を運ぶ割合が高いと判明したからだという。同ロボットによる薬剤の運搬業務は「ほぼ100%」の成功率で実施され、看護師の負担を大きく減らすことに成功したと報告されている。
また、アメリカのとあるロボットメーカーは、食品デリバリーサービスの配送担当を代替するロボットを開発し、既に実用化に成功したことが報告されている。同ロボットが配備されている地域のユーザーは、注文時に配送を人間とロボットのどちらが担当するかを選択可能だ。
同社は配送ロボットの生産増強を目的に、2024年12月に約8,600万ドルの新規資金を調達しており、今後はロボットの稼働台数も2025年7月時点での250台から最大2,000台に増やすことを計画している。
フィジカルAIの課題と活用指針

大きな期待のかかるフィジカルAIだが、解決すべき課題も多い。例えば、エネルギー効率や環境負荷という観点で見ると、必ずしもフィジカルAIが優れているとは言えない。2023年にスタンフォード大学が発表した調査によると、高性能なAIモデルの学習に必要な電力消費量は、平均的なアメリカの家庭における電力消費量の数百年分に相当するという。従来型の生成AIでもこれだけの数字であることから、より進化したフィジカルAIが実用化された場合、どのようにエネルギーを確保するかという課題に直面するだろう。
また、フィジカルAIは人手不足を解消する起爆剤になり得ると同時に、人間の雇用を奪うことにもなりかねない。さらに、フィジカルAIが一般化する中で軍事転用される可能性が高いことも懸念されている。フィジカルAIの活用には、従来型のAIと比較して、より利用者に高い倫理感と責任が求められるだろう。