マーケティング

VUCA時代は中小企業同士が連携し
ITと地方・女性の可能性を引き出すべき
~フリーキャスター・コメンテーター 事業創造大学院大学客員教授 伊藤聡子氏~

掲載日:2025/04/22

伊藤聡子氏

2010年代以降、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった「VUCA(ブーカ)」という時代認識がビジネス分野でも使われるようになった。激しく変化する予測困難な時代に立ち向かうために何が必要かを聞いた。

得意分野を軸にしながらさまざまな事業に挑戦を

BP:近年ドラスティックに変化している日本経済について、率直なご意見をお聞きかせください。

伊藤 聡子氏(以下、伊藤氏):とにかく変化が速く、1年先も見通せないので、常に臨戦態勢でいなければならない時代です。ビジネスのグローバル化も進んでいますが、法律が異なる海外では、日本企業の優れたビジネスモデルが通用しないケースもあります。国と国との関係のバランスを取りながらポジションを見定めることも難しくなっています。

また、「曖昧」という点では、産業界の垣根が無くなり、さまざまな業態が生まれています。これまで「餅屋は餅屋」という専門性で生き残ってきた企業も、得意分野を軸としながら色々な事業にチャレンジしなければならない時代なのかもしれません。

BP:特に最近は円安による原材料費の値上がりが続いています。価格に転嫁できずにジレンマを抱えている中小企業はどのように対応すれば良いのでしょうか。

伊藤氏:適切な価格転嫁はしていかなければならないと思います。しかし、ただ価格転嫁すれば良いのではなく、価格が上がることの丁寧な説明とともに付加価値を追求し、取引先に納得してもらう努力を続けることが大切ではないでしょうか。

また、中小企業同士でパートナーシップを構築することも有効です。原材料を大ロットで共同購入した方が仕入れコストを下げることができ、人材をシェアリングすることも可能です。得意分野を持つ企業同士が緩やかなパートナー関係を構築し、さまざまな部門を持つ1つの大きな会社に見立てられるような取り組みも必要だと思います。

例えば、金型の会社を取材した際、発注するメーカーと受注する工場が縦割りで、業界の横のつながりがほとんど無いため、繁忙期と閑散期の波が激しすぎて、後継者も育たずに廃業を余儀なくされるケースが繰り返されていると聞きました。

そんな中、複数の金型企業が提携し、工場の機械にセンサーを取り付けて、クラウド上で稼働状況が一目でわかる仕掛けを作ったという話もあります。どの機械が空いているのかがわかれば受注機会を逃さないだけでなく、 1社では到底賄えない大きな仕事を受け付けることもでき、稼働率も収益も上げられます。

本当に人が集まらない時代なので、中小企業こそDXが重要です。特に単純作業は人が集まりにくいので、どんどんITや機械に任せるべき。DXやAIの世界はまさに日進月歩で、価格も安くて精度が高いシステムも出てきています。社員を1人、2人雇うのと同じくらいの成果があるでしょう。

BP:なるほど。デジタル化によって人手不足の解消と業務効率化を実現する本来のDXの役割が、中小企業の課題を解決するのですね。一方、日本は「デジタル貿易赤字」が膨れ上がっています。巻き返すためには何が必要なのでしょう。

伊藤氏:デジタルに限らず、イノベーションをいかに起こせる状況にするかだと思います。最近は「人的資本」と言われますが、社員一人ひとりの力を引き出し、伸ばしてくことで新しい技術を生み出すことが重要。そして、その技術で日本が世界をリードすることに意味があるのだと思います。

今企業に必要なのは、現場で素早く状況判断し、上司に提言できる人材。今までは新卒を採用し、社風に合うように育ててずっと働いてもらうという方式でしたが、「うちの会社のことしか知らない」という人では対応できない時代です。

状況判断にはさまざまな経験や知識が必要だからです。社員一人ひとりがそれぞれに会社以外のことも経験し、学ぶことを会社が応援するという体制を整えることで、会社に多様な人材が生まれ、はじめて化学反応が起き、イノベーションが起きるのだと思います。 ITでできること、人がやらなければならないことを明確化し、その上で人にどれだけ投資していくのかが、日本企業に突きつけられている課題ではないでしょうか。

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