建設・土木業
建設人材を確保する「担い手3法」の改正
企業がとるべき対応とは
掲載日:2025/04/15

建設業における中長期的な担い手の育成・確保を目的とした、建設業法・入契法・品確法を「担い手3法」と呼ぶ。同法は2014年、2019年に法改正が行われ、2024年で3度目の改正となる。今回の改正は建設業界にどのような影響を及ぼすのだろうか。
「担い手3法」改正の背景
2024年6月に「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」の総称である「第三次・担い手3法(以下、担い手3法)」の改正が公布された。同法の施行は三段階に分かれており、第一次は同年9月、第二次は同年12月に施行された。最終の施行となる第三次も2025年中の施行を予定しており、今後具体的な期日が設定される見込みだ。
同法が改正された背景には、建設業界における待遇改善と人材確保という二つの課題が大きく影響している。2024年に国土交通省が発表した資料「第三次・担い手3法について」によると、1997年のピーク時には約685万人いた建設業就業者が、2023年には約483万人に減少している。また業界内の高齢化も進んでおり、2023年段階で55歳以上の人材は全体の3割以上を占める一方、29歳以下の人材は約1割にすぎない。

就業者数減少の要因と考えられるのが、建設業界の待遇に対する就業者の不満だ。前述の資料によると、2023年の建設業全体の平均年収は約490万円、そのうち生産労働者に限れば約432万円だ。これは、全産業の平均年収の508万円と比較すると大きな差がある。
また、建設資材の価格もここ数年で急上昇しており、例として生コンクリートの価格は2024年7月、前年同月比で約16%も値段が上昇している。
このような状況下では価格転嫁が進まず、建設業全体の待遇改善は極めて難しい。そこで、今回の大規模な法改正につながった。
法改正の内容
では、今回の改正では具体的にどの部分が見直されるのだろうか。詳しく内容を見ていこう。
適正な賃金水準の確保に向けた取り組み
今回の担い手3法の改正では、適正な労務費を確保し、それを原資に就業者の処遇を改善することが努力義務化され、著しく低い労務費などによる見積りの提示や依頼が禁止される。基準を満たさない事業者は法律により勧告、処分の対象となる。
また、受注者側にも一連の工事の総価から原価割れの契約も禁止されることが明記される。
資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止
昨今の資材高騰など請負額に影響を及ぼす情報は、受注者から注文者に提供することが義務化される。また、資材が高騰した際の請負代金などの変更方法を契約書に明記することも定められる。
その他、双方合意のうえで契約が済んだ後に資材高騰が顕在化し、受注者が契約の変更を申し出た際は、注文者が誠実に協議に応じることも努力義務となった。
これらの対策によって、価格転嫁をめぐる協議を円滑化し、労務費へのしわ寄せを防止する効果が期待できる。
働き方改革と生産性向上

生産性の面では、兼任する現場間の移動が容易であるなど一定の条件を満たす場合、技術者が複数の現場を兼任することが可能となった。また、新たに国が現場管理の指針を策定することで、建設業者が効率的な現場管理を行うことも努力義務となる。
また、受注者側に不当に短い工期を強いる工期ダンピングを防止するため、発注者側・受注者側の双方で契約を交わすことを禁止にすることが定められた。
さらに、従来は公共工事において、受注者側が発注者側に対し施工体制台帳を提出することが義務とされていたが、今後はICTの活用により施工体制を確認できる場合は提出が免除となる。
企業側に求められる対応
担い手3法の改正により、今後は著しく低い労務費などによる見積りの提示や見積りの依頼が禁止されるが、基準となる具体的な数値に関しては、中央建設業審議会が作成する「労務費の基準」を基に判断される。
ただし数値基準を定めた場合、その数字をわずかに下回らない程度の見積りを提案することで、罰則を回避しつつ従業員の待遇改善が実現されない企業が現れる可能性もある。
そこで、今回の改正では具体的な数値基準を設けず、業務違反が疑われる悪質なケースなどを取り締まることを念頭に柔軟な対応が行われることとなった。
この決定は、企業にとって「具体的な基準が確立していないと対策が打ちづらい」という懸念もあるが、国交省は原価割れが高確率で想定される見積りなどを指すとの発表をしている。これを踏まえると、企業は従業員へのしわ寄せが発生する可能性がある原価割れ前提の見積りを避けることが重要だろう。
また、技術者が複数の現場管理を兼任できる体制づくりや、施工体制台帳の提出免除などの業務効率化を進めるには、ICTの活用が不可欠となる。DXを推し進め、今回の法改正を機に好循環につなげる環境を整えていきたい。